2016年9月17日、高江ヘリパッド建設に関し逮捕されていた二人の被疑者が釈放されました。
沖縄・高江で逮捕の男女、裁判所が勾留請求認めず
沖縄タイムス(2016年9月18日)
私も弁護人を務めていました。
このコラムでは、刑事事件に関する統計に触れながら、高江の状況を分析してみたいと思います。
※全て末尾の統計資料を元にしています。
1 逮捕
刑事手続は、基本的に逮捕で始まります。検察による逮捕も年間221件ありますが、全体からみればごくわずかで、ほとんどは警察官による逮捕です。
刑事事件全体は、年間356,594件、うち逮捕されない者が229,151件、検察庁逮捕件数が221件ですので、警察による逮捕案件は127,222件です。1日350件逮捕されているという計算になります。
2 送検
警察は逮捕した被疑者を釈放するか、検察官に送致するか、いずれかを48時間以内にしなければなりません(刑事訴訟法203条1項)。
検察庁への送致件数は年間119,119件ですので、逮捕されたら93.6%の割合で検察官に送致されています。
報道各社は「送検」と大騒ぎしますが、原則送検されるものということです。報道各社は、被疑者の映像や写真が撮れるから騒ぐのだと思いますが、この確率に照らすと、送検そのものに報道する価値があるかは甚だ疑問です。
3 勾留請求
検察官は被疑者の送致を受けたら、被疑者を釈放するか、裁判官に勾留請求するか、いずれかを24時間以内にしなければなりません(刑事訴訟法205条1項)。
裁判官への勾留請求件数は年間111,476件です。検察庁が取り扱う事件は、2の119,119件に検察庁逮捕の221件を加えた119,340件で、年間の勾留請求件数は111,476件ですので、検察官は送致を受けたら93.4%の割合で裁判官に勾留請求しています。
なお、高江ヘリパッド建設に関し逮捕された件数は5件です(9月18日までの件数)。このうち3件は勾留請求自体がされずに、検察官により釈放されています。
4 勾留請求却下率
勾留請求を受けた裁判官は、勾留請求を、認容するか却下するかを判断します。認容は109,686件、却下は1,790件で認容率は93.4%にも及びます。
なお、高江ヘリパッド建設に関し逮捕された件数は5件で、うち2件は検察官に勾留請求されました。しかし、いずれも勾留請求は却下されています。
5 その後の手続
検察官の勾留請求を、裁判官が認容した場合でも却下した場合でも、不服申立て手続として「準抗告」という制度があります。認容の場合は弁護人から、却下の場合は検察官から申し立てられることがあります。
この部分については統計資料が見つけられませんでしたが、一般的に、弁護士の準抗告は滅多なことでは認められず、検察官の準抗告は結構な割合で認められています。
高江のヘリパッド建設に関し逮捕され、勾留請求され、勾留請求が却下された2件について、検察官は「準抗告」を申し立てました。しかし、裁判所(3人の裁判官の合議体)はこの「準抗告」も棄却しています。
6 勾留される率
以上から、逮捕→勾留される率が算定できます(勾留請求却下後、準抗告で勾留された件数を除く)。
まず、警察による逮捕は127,222件、検察による逮捕は221件ですので、合計逮捕数は127,443となります。勾留請求の認容件数は109,686件ですので、逮捕→勾留される率は86.0%となります。
高江ヘリパッド建設に関し逮捕された件数は5件、勾留された件数は0件です。
7 勾留前に弁護士が付く割合
弁護士が付くタイミングについて少しお話しします。多くの事件では、勾留された後になって初めて弁護士が付いています。これは、国の被疑者国選制度が、勾留後の一定の事件にしか適用されていないからです。逮捕→勾留までの間に国選弁護制度はありませんので、日本弁護士連合会は全逮捕事件への国選弁護制度の拡大を求めています。
現行制度の不備を埋めるものとして、全国の弁護士会は当番弁護制度という制度を自費で行っています。逮捕直後に虚偽自白等がされることが多いことに鑑み、弁護士会がお金を出し(あるいは弁護士がボランティアで)、逮捕後に一度面会する、という制度を運営し続けています(財源は全国の弁護士が毎月納めている会費です)。
高江ヘリパッド建設に関し逮捕者が出ると、市民の方から高江弁護団に連絡が入り、高江弁護団等の弁護士のうち、そのとき動ける人が駆けつけて面会する、ということになっています(ボランティアで…)。
当然、早いタイミングで弁護士がついたほうが、勾留されにくいという傾向がありますので、この点を考慮する必要があります。
日本弁護士連合会発行の弁護士白書によると、平成25年の当番弁護受付割合は勾留請求件数の41.1%となっています(計算すると45,816件になります)。
ここからは統計がないので個人的な感覚になりますが、当番弁護のうち3割程度は、勾留請求後の当番受付になっていますので、これを割り引くと勾留請求前に弁護士が面会している逮捕案件は32,000件程度だと思われます。
以上より、全体の3割程度は高江の件と同じように勾留請求前に弁護士が会っていることになりますが、それでも、86.0%の割合で勾留されているということになります。勾留されると、原則として10日間外に出られなくなります。普通の人は職を失います。
その上で逮捕日に面会できる場合と逮捕翌日に面会できる場合とで、やはり弁護士の動きは違います。この点は統計にないので測りようがありませんが、いずれにしても、逮捕5件で勾留0件という高江ヘリパッド建設に関する案件に関する結果は、他の刑事事件のものとは大きく掛け離れています。
8 高江ヘリパッド建設に関する逮捕の異常性
実際に活動して感じたことですが、検察官と裁判官の判断は、「高江だから」ということで特別ではありません。高江ヘリパッド建設に関することであっても、そうでなくても、同じように判断していると感じています。
よって、以上のような統計的にも異常な現象が起きる要因は、基本的に2つしか考えられません。1つは逮捕基準が他の事件と異なっている、つまり不当逮捕をしている可能性です。もう1つは弁護団の弁護士の腕が他の弁護士より著しく優れている、という可能性です(^_^)。
弁護団の弁護士の先生方が精鋭揃いなのは事実ですが、逮捕された5人に付いた弁護士は異なっているので(一部重なってもいますが)、後者の要因による影響はあくまでも限定的だと思われます。
以上から、統計という客観的な数値からみても、
高江のヘリパッド建設に関し、不当逮捕が行われていることは明らかだと思いますが、いかがでしょうか。
警察白書平成26年の該当部(検察庁既済事件の身柄状況(罪名別))
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/61/nfm/images/full/h2-2-2-01.jpg
弁護士白書2014年版 117頁(ネットはまだありませんでした (>_<) )